ああ、何で俺は、いつもこういう立ち回りになってしまうのだろう。
きっと生まれた時から運が無かったんだ。
不運! そう考えればよく納得できる。

生まれてすぐに親に捨てられたのも。
拾われて育てられた施設がちょっとアレだったのも。
アレな施設から「宇宙人の振りをして世界を征服してしまえ」とか命令されたのも。
きっと俺が不幸の星の元に生まれたせいに違いない。

だからさ、それに比べたら、今の俺の状況なんてプチ不運だ。
これまでの人生の中であった数々のトラブルに比べたら何でもない。日常茶飯事のレベル。

「おい、勝負しようぜ!!」
「…………はあ」

目の前には俺と同じぐらいの年頃の少年が、サッカーボールを持って立ちはだかっている。
少年は、確か名前はエンドーマモル。
エイリア石で強化した俺たち宇宙人とまともに、
かつ互角にサッカー勝負をやってのける化け物チームのキャプテンだ。
俺も一度だけやむをえず、戦ったけれど、引き分けに終わらすのがやっとだった。
というより、晴矢の野郎が乱入してきてお流れになった。

「何で、お前たちがここにいるんだ」

ここは俺のチームが与えられた秘密練習場。
勿論私有地。当然立ち入り禁止。
なのに奴らときたら、堂々と私有バスで乗り付けて、練習場の設備までフル活用してやがる。
これ、出るとこ出たら勝訴できるぞ? 宇宙人だからしないけど。

「宇宙人が入り浸っているという情報があったからな。確認のために来たけれど、ビンゴだったとは」

独特のゴーグルをかけたマント少年が答える。
あちらのチームも、金とコネは十分すぎるぐらいに持っているので、
別に誰かのアジトがバレるのは予想済みだ。
………まあ、それが俺の本拠地だったのは、不運としか言いようがないが。

「ふん。さっさと出て行け。今日ぐらいは見逃してやる」
「だーかーら、サッカーしようぜ」

見逃してやるって言ってんだろう、空気読めよ円堂!!!
つうか、お前たちとサッカーする気ねえんだよ、常に宇宙人の振りしながらゲームするの、地味に精神的にくるんだからな!
試合終わる度に部下たちから今日のキャプテン、声作ろうとしてもののけ姫みたいになってましたよねプププとか言われるんだぞ!
ほら、お前のチームメイトたちもざわざわしてる。

「円堂、向こうもああ言っていることだし、ここは退かないか?」
「そうよ、こっちだってまだ万全のコンディションじゃないし」

水色の長髪少年と、マネージャーらしき少女が両脇から円堂をなだめている。
そうそう、宇宙人なんて余る程いるんだから。何も俺と戦わなくていだろ。
だがキャプテンの影響は絶大だ。周りの顔を見る限り、黙っているものの試合してもいいかなって思ってる奴もちらほらいやがる。

「でもさー、折角いるんだし、」
「……ちょっと待て。みんな聞いてくれないか」

先程の賢そうなゴーグル少年が、円堂のだだっこを遮って皆に呼びかけた。
こいつがチームにおいての参謀であることは知っている。
さて、どんな話で円堂を説得するのか。

「宇宙人とこうして遭遇する確率を、みんなは知っているか」
「え?」

うん、何を言い出すんだこいつ。

「彼らの星が生命の誕生と進化に適する環境である確率、そこから実際に生命が誕生し進化できる確率、
 その生物が知的生命体でなおかつ地球と通信、交流できるほどの発達した文明をもつ確立、
 それらの文明と、俺たちがこうして生きている今と重なる時間的な確立、諸々を全部かけあわせれば、
 こうして宇宙人と相対していることが奇跡のように思えないか」

考えた事は無いが、すごく天文学的な数字にはなりそうだな。
多分、そういうことを言いたいのだろう。
雷門面子も小難しそうに顔をしかめながら、鬼道の言うことに頷いた。

「何となく、鬼道さんの言いたいことはわかるっす」
「なんか当たり前のように感じてたけど、確かに宇宙人と会って話したりする機会、普通はないものね」

で、結局鬼道さんは何が言いたいの?何がしたいの?
そう思ってたのはどうやら俺だけではないようで、
話の意図がつかめず首を傾げているチームメイトに、鬼道は畳みかけた。

「宇宙人と出会えただけでも天文学的な確立の奇跡なんだぞ。
 その上、彼ら宇宙人とサッカーをすることがどれほど「ありえない」ことかわからないのか!」
「確かに………」
「そう考えると、何だか試合しない方が勿体ない気もする……か?」

ああ、なるほどね。
鬼道さんとやらのキャラクターを俺は今、正確に理解した。
こいつ、馬鹿だ。超ど級がつくほどのサッカー馬鹿なんだ。

そして、その馬鹿さ加減は鬼道さんに限った事じゃないらしい。


「おい、勝負しろ! いや、してください!!!」
「仲間も近くにいるんだろう。早く呼んで来なよ」
「よーし、今こそ決着をつけるぜッ」


俺は遠い目で練習場の天井を見ながら、周囲の声をシャットダウンした。
見慣れたものなのに、今はいつにもまして高く感じる。
……あのね、俺、本気で自分が宇宙人だとは思ったこともないけどな。


(もしも生まれ変われるのなら、普通の人間になりたい)