試験が終わって早一週間。
勉強に追い込まれていた忍たま達は各々好き勝手に自由を楽しんでいるのだが
真面目な学級委員長委員会の一年生は委員会で先輩を待つ僅かな時間も教科書を黙読していた。
そういえば、とふいに顔とあげた一年い組の今福彦四郎は、
一年は組の黒木庄左ヱ門に声をかけた。

「一年は組って、今、組内で喧嘩でもしてるの?」
「なんで?」

突拍子もない質問だった。
今日の授業の復習をしていた庄左ヱ門は顔を上げた。

「昨日、は組の団蔵と金吾がちゃんばらごっこで遊んでたんだけどね。
 えーと……ほら、かけ算のできない転入生、んっと」
だよ、彦四郎」

酷い覚え方をされたものだ。
一応、今は九の段までかけ算ができるけれど、
話の腰を折らぬためにあえて庄左ヱ門は訂正しなかった。

「そう、そのがね! 彼らの脇を通ろうとしたら、騒がしかった二人がぴたっと口を閉ざしてさ。
 の方も同じ組なのに目も合わせないで素通りしてたんだよ。空気悪くない?」
「うーん……そうだね。三人には注意しておくよ」
「金吾も団蔵も、喧嘩してても後には引きずらない性格だと思ってたけど。何があったの」

仲の良いは組みがさ、と好奇心を滲ませて肩を寄せる彦四郎に、
「大したことじゃないよ」と庄左ヱ門は困ったように笑った。
それが、詳しく聞いてくれるなという予防線だと気づき、彦四郎はそれ以上の追求をやめた。
再び、手元の忍たまの友を読み始めた。

二人だけで始まり、二人だけで終わった会話だった。
聞いているものは誰もいなかった。

いないはずだった。







「土井半助、戻っておったか」

庵に戻ると、色濃い隈を浮かべた土井が、静かに座っていた。
この刻限に戻ってくるように言っておいたが、
本当に戻ってくるとは思っていなかった。
連日徹夜してきたであろう彼は、学園長の迂闊な一言に言い返す気力もなく、
静かに巻物を差し出した。

「ドクタケの報告書です。利吉君の聞いたとおり、瓜子城との戦に備えて活発に武器の調達をしていました」

学園長は巻物を開いて文字を追う。
翁の予想を全く裏切ることのないドクタケの悪巧み。
戦まであまり日数は無いようで、数日後には南蛮から買い付けた大量の火薬類を
城に運び入れる計画も持ち上がっているようだ。
ふむ、と学園長は腕を組んで長考する。

ドクタケと瓜子の直線上に、学園が位置している以上、今回の戦で何がしかの影響はあるだろう。
ドクタケが学園を巻き込んで何かを企んでいるわけではないが
瓜子がどう出るかはわからない。

あの城は、何をしてもおかしくはない。



「報告ご苦労じゃった。ところで土井先生」
「何でしょうか学園長」
「一年は組の追試試験は順調かの?」

土井半助の目がかっと見開き。同時にぶちりと、何かが引きちぎれる音が聞こえた。
脇に控えていたへむへむが咄嗟に耳を塞いでいるのが視界の端に映る。

「順調なわけないでしょうが!!!!!!
 試験が終わって早々、どこかの誰かさんのせいで、私は出張でしたからね!!今の今まで!!!」

「これからっ、徹夜で、追試試験と補習の予定を作りますよ!! 徹夜でッ!!」

怒声に、涙声が混じる。
更に言い募ろうとする土井を制し、学園長はにこにこと笑った。

「よし、それならばワシに良い案がある」
「……………いえ、結構です」

長年の経験で、学園長の『良い案』ほど碌な物が無いと学んでいる土井は、
怒鳴っていたのも忘れてさっと身を引いた。

「何、一年は組だけとは言わん。そうじゃのお、主に下級生を中心として、」
「いえ本当に結構です」
「チーム対抗ドキドキサバイバルin裏裏山、なんてどうじゃろうか!」
「ですから本当に結構、って、裏裏山!?」

声を引きつらせ、土井は自分が渡した報告書をじっと見た。
その視線に学園長は頷き、笑みを深めた。

「時間は数日も無いからの。今すぐ、先生方を集めなさい」


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